
「視点を変える」ことで、世界が変わる
人は、出来事そのものではなく、出来事をどう見るかによって感情や行動を決めています。同じ状況でも、視点が変われば、現実の意味がまったく異なって見える――。C11-2「ポジションチェンジ」では、この「視点の転換」を意識的に扱い、クライアントが新しい認識と選択を得られるように支援する技法を学びます。
ポジションチェンジは、心理学やNLP(神経言語プログラミング)などでも用いられるアプローチであり、単に思考を変えるのではなく、自分・他者・全体の関係性を体感的に捉え直すことを目的とします。コーチングにおいては、「客観性」ではなく、「多面的な共感力」を育てるための強力なツールです。
3つのポジション ― 自己・他者・メタ
ポジションチェンジでは、主に3つの立場を行き来します。
第1ポジション(自己)
自分の立場から状況を感じ、体験をありのままに味わう。
→ 感情や欲求を明確にする。
第2ポジション(他者)
相手の立場に立って状況を見る。
→ 相手の意図・感情・価値観を体験的に理解する。
第3ポジション(メタ)
全体を上から俯瞰するように眺める。
→ 双方の関係性や構造を客観的に把握する。
この3つを往復することで、クライアントは「自分の内側にあった固定的な視点」から離れ、より広い理解と柔軟な対応力を獲得します。
視点の移動が生む「内的共感」
たとえば、上司との対立で悩むクライアントがいたとします。
第1ポジションでは、「私は正当に評価されていない」という感情に気づき、第2ポジションでは、「上司もプレッシャーの中で組織を守ろうとしている」という相手の意図を体験的に理解します。
そして第3ポジションでは、「二人の間には信頼を取り戻す余地がある」という新たな関係性の可能性を発見します。
このプロセスは、単なる認知的理解ではなく、感情と身体を通じた洞察です。
視点が変わることで、クライアントの内的世界も変化し、行動の選択肢が自然に広がります。
コーチの役割は「視点を移動するナビゲーター」
ポジションチェンジを扱う際、コーチは問いかけと沈黙を巧みに使い分けながら、クライアントが自らの気づきを得るプロセスを支援します。
「今、どの立場から世界を見ていますか?」
「もし相手の立場だったら、何が見えるでしょう?」
「少し上から全体を眺めると、何が違って見えますか?」
このような問いは、クライアントの思考に新しい空間を生み出します。
講座では、演習を通じて、身体感覚を伴うポジション移動を体験し、頭で理解するコーチングから全身で感じるコーチングへと深化させます。
視点の変化は、Beingの変化
ポジションチェンジの本質は、「他者を理解する技法」ではなく、自分のBeing(在り方)を拡張するプロセスです。他者の立場に心から立てるとき、人は同時に自分の枠を超えて成長しています。
つまり、視点を変えるとは、世界の見方を変えるだけでなく、自分の存在の広がりを体験することなのです。この内的変化こそ、エグゼクティブ・コーチングにも通じる成熟の核心です。相手を変えようとせず、まず自分の視座を変える――そこから真の関係変化が始まります。
2026年5月30日に新刊『問いの力』がリリースされました
これまで多くの対話に関わる中で感じてきたことがあります。
「人は『答え』」で変わるのではなく、「問い」によって変わる」。
正しい答えを探し続ける限り、思考は過去の延長に留まります。
しかし、本質的な問いに出会った瞬間、人はまったく違う景色を見始めます。
そのプロセスを言語化したのが、今回の新刊『問いの力』です。
この本が、あなた自身の問いを深めるきっかけになれば嬉しいです。
国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC)
日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久

