
「あなたが自分を信じられたと感じた瞬間はいつですか?」
この問いに、即答できる人は多くありません。なぜなら私たちは、「自分を信じる」という感覚を、能力や成果、自信と混同してきたからです。
本講座B6「自己基盤③」では、セルフイメージ・自信・自己承認・自己信頼という、似ているようで本質的に異なる概念を丁寧に整理します。この回のゴールは、自分を無条件に信じ切ることではありません。自分との関係そのものを、信頼できる状態へと育て直すことです。
セルフイメージは「真実」ではなく「物語」
セルフイメージとは、「自分はこういう人間だ」という自己像です。それは過去の経験、他者からの評価、成功や失敗、担ってきた役割などからつくられた、一つの物語にすぎません。問題は、私たちがその物語を“事実”だと思い込み、自分にラベルを貼り続けてしまうことです。
コーチングにおいて重要なのは、セルフイメージを無理に高めることではありません。
小さな成功体験を丁寧に味わい、過去の自分と今の自分を比べながら、変化に気づいていくこと。そのプロセス自体が、セルフイメージを自然に更新していきます。
自信と自己信頼は、まったく別のもの
自信は、特定の領域における能力や経験への確信です。練習や成功体験によって高まり、失敗や評価によって揺れ動きます。一方、自己信頼は「私は自分の判断や選択、感情を信じられる」という、存在に根ざした内側の信頼です。自信はDoingの領域、自己信頼はBeingの領域にあります。だからこそ、エグゼクティブやコーチのように不確実な判断を求められる立場では、自信以上に自己信頼が重要になります。
自分との約束が、自己信頼を育てる
私たちは他人との約束は比較的よく守ります。破れば信頼を失い、関係に影響が出るからです。しかし、自分との約束はどうでしょうか。「誰にも迷惑をかけない」「何度でもやり直せる」という理由で、簡単に破ってはいないでしょうか。
自分との約束を破り続けることで失われていくのは、自信だけではありません。自己効力感、自己肯定感、自己尊厳、そして自己信頼です。逆に言えば、小さな約束を誠実に守ることが、自己信頼を回復させる最も確かな道でもあります。
自己承認が、内側の安全基地をつくる
自己承認とは、「できた自分」を評価することではありません。うまくいかなかった自分、迷っている自分、不完全な自分も含めて、「そのまま価値がある存在」として認める力です。他者からの承認は一時的に心を満たしますが、自己承認がなければすぐに空になります。自己信頼が高い人は、自分の内側に「安心して戻ってこられる場所」を持っています。だからこそ、迷いながらも誠実に選び続けることができるのです。
自己信頼とは、迷わないことではありません。迷いの中にいても、自分を見捨てず、選び続けられること。この自己基盤があるからこそ、コーチはクライアントの不確実性にも、静かに寄り添うことができるのです。
国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC)
日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久
