A9. ギャップの原因分析

理想と現実の「ずれ」を見つめ、変化の起点をつくる

コーチングの目的は、クライアントの「ありたい姿」を現実の行動へとつなげることにあります。しかし多くの場合、理想と現実の間にはギャップが存在します。
A9「ギャップの原因分析」では、このギャップを「問題」ではなく「成長の余白」として捉え、クライアント自身が変化のポイントを見出すプロセスを学びます。
コーチングは、現状を批判する場ではありません。むしろ「いまの自分」を丁寧に観察し、そこにあるパターンや構造を理解することから始まります。
原因分析とは、過去を責めることではなく、次の一歩をより確実にするためのリフレクションです。この講座では、感情・思考・行動の3層からギャップを読み解き、クライアントの内的成長を支援する技法を体系的に学びます。

ギャップ分析の3つの観点

1. 現状の事実を正確に捉える~判断ではなく観察から始める~

多くの人は、現状を語るときに「うまくいっていない」「まだできていない」といった評価を交えがちです。しかし、自己評価のフィルターが入ると、真の現実が見えなくなります。コーチは、クライアントの言葉の奥にある具体的な行動や出来事を引き出し、「何が起きているのか」「どんな結果が出ているのか」を事実として整理します。
このとき重要なのは、問いのトーンです。
「なぜできなかったのか」ではなく、「どんな状況のときにそうなりやすいですか?」といった非評価的な問いが、クライアントに自己理解のスペースを与えます。

2. 原因を構造的に理解する ~行動・思考・感情の相互作用~

行動には必ず背景があります。
表面的な原因探しではなく、「どんな考え方(思考)」「どんな感情」「どんな環境」がその行動を生んでいるのかを探ります。
講座では、“3層モデル(Doing・Thinking・Feeling)”を使って、行動の背後にある構造を可視化します。たとえば「会議で発言できない」という行動の背後には、「自分の意見には価値がないかもしれない」という思考や、「失敗したくない」という感情があるかもしれません。この相互作用を理解することで、クライアントは「何を変えれば行動が変わるのか」を自ら発見できるようになります。

3. 自己認識を深め、選択の自由を取り戻す

原因分析のゴールは、過去を掘り返すことではなく、「自分で選択できる領域を広げること」です。自分のパターンに気づけば、同じ状況でも違う行動を選べるようになります。講座では、リフレクションの対話を通じて、クライアントが「自分が何を選び、何を避けているのか」を意識化できるよう支援します。このプロセスを通じて、クライアントは被害者意識から創造者意識へとシフトしていきます。

「分析」ではなく「洞察」を生み出す

コーチングにおける原因分析は、理詰めの分析ではなく、気づきを生むための探求です。コーチは専門家として答えを出すのではなく、問いと沈黙を通じてクライアントの自己洞察を引き出します。たとえば、「どんな思い込みがあなたの行動を制限していると思いますか?」「それを手放したら、どんな選択が可能になりますか?」といった質問が、内的変化を促します。
CBLアカデミーでは、こうした「問いの力」を通じて、分析を気づきの体験に変えるコーチングを探求します。また、コーチ自身も自らのパターンに気づく必要があります。クライアントの行き詰まりに反応する自分の感情を観察することが、より深いセッションへの入り口です。この自己理解こそ、プロフェッショナルコーチの成長を支えるリフレクションです。

次のステップへ:行動の変容と成果の実感へ

A9「ギャップの原因分析」で可視化された現実と理想の差は、次のA10「行動促進/コーチングエバリュエーション」につながります。
行動変容は、原因を理解した瞬間から始まります。
この講座で得た洞察は、単なる分析ではなく、変化の起点です。
クライアントが自分の行動パターンに光を当てたとき、そこに初めて「次に進む力」が生まれます。
A9は、コーチングの中でも最も内省的で知的な時間です。理想を描くだけでなく、現実を見つめる勇気を育てる講座です。コーチとクライアントが共に現実に向き合うとき、真の成長の物語が始まります。

国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC
日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久