
コーチングの「目的地」を共に描く
コーチングの価値は、クライアントがどこに向かうのか──つまり「テーマ」と「ゴール」がどれほど明確かによって決まります。
A7「テーマ/ゴール設定」は、セッション全体の方向性を定めるための最も重要なステップです。目的が曖昧なままでは、どれほど優れた質問をしてもクライアントの変化は散漫になります。逆に、明確なテーマとゴールを共に描けたとき、コーチングの対話は驚くほどの集中力と創造性を発揮します。
この講座では、クライアントとコーチが「どんな未来を共に目指すのか」を合意するプロセスを、理論と実践の両面から学びます。テーマ設定とは単なる話題の選定ではなく、人生や仕事の中で、何を変えたいのか、何を大切にしたいのか、を明確にする内省の時間です。
テーマ/ゴール設定の3つのステップ
1. テーマを掘り下げる
「何について話したいか」ではなく「なぜそれが大切か」
クライアントが最初に提示するテーマは、多くの場合、表面的な課題や現象に過ぎません。コーチの役割は、その背後にある価値観や感情を引き出し、「本当に扱いたいテーマ」を共に見つけることです。たとえば「部下との関係を良くしたい」というテーマの背景には、「自分らしいリーダーシップを発揮したい」という本質的な願いが隠れているかもしれません。この講座では、「What(何)」よりも「Why(なぜ)」に焦点を当て、クライアントの深い動機を探る問いについて考えます。
2. ゴールを明確化する ― SMARTを超えて、意味ある目標へ
多くの目標設定フレーム(SMARTなど)は有効ですが、コーチングでは達成のための数値目標にとどまりません。ここで重視するのは、「そのゴールを達成したとき、クライアントはどう在りたいのか」という質的な側面です。
CBLコーチング経営アカデミーでは、「どんな自分で」「どんな行動をし」「どんな成果を得たいのか」、ゴールを“Being × Doing × Having”の3次元で捉えます。
この視点でゴールを定義すると、目標が単なるタスクではなく、人生の方向性とつながる意味のある挑戦に変わります。
3. コントラクト(契約)としての合意
「この時間の成果」を共有するテーマとゴールが明確になったら、セッションの終わりに向けて、クライアントと「今日のコーチングで得たいもの」を合意します。この合意は、セッションの焦点を定めると同時に、クライアントの主体性を引き出す重要な瞬間です。
講座では、ICFコア・コンピテンシーB-3(合意の確立と維持)に沿って、初回セッションや継続セッションでの目標合意の方法をケースで学びます。「テーマとゴールの共有」があることで、コーチとクライアントは同じ方向を見て進む共創関係を築けるのです。
「目標」ではなく「意味」を共に見つける
CBLが重視するのは、成果よりも「意味」です。
コーチングのゴールとは、数字やスキルの向上ではなく、「その人がどんな自分として生きたいか」を明らかにするプロセスです。この講座では、問いを通してクライアントが自分にとって本当に価値ある目標に気づく瞬間を支える技術を身につけます。
それは、目標を立てるというより、人生を方向づける作業です。また、テーマ設定のプロセスは、コーチ自身にとってもリフレクションの機会となります。「私はなぜこの人のゴールを応援したいのか」「自分が信じる成功とは何か」、そうした問いに触れながら、Beingとしてのコーチの軸がさらに明確になります。
次のステップへ:ありたい姿の明確化へ
A7「テーマ/ゴール設定」で方向性を共有した後は、次のA8「ありたい姿の明確化」へ進みます。テーマが“何を変えたいか”なら、ありたい姿は“どんな自分でありたいか”です。両者をつなぐことで、コーチングは単なる目標達成支援を超え、クライアントの存在そのものを照らす旅となります。A7はその旅の「地図」を描く時間です。クライアントの真の願いを引き出し、共に未来を描くこのプロセスこそ、コーチングの醍醐味です。
国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC)
日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久
