A6. コーチングオリエンテーション/プレコーチング

「はじまりの対話」が、すべてを決める

コーチングの成果は、最初の対話の質によって大きく左右されます。
A6「コーチングオリエンテーション/プレコーチング」では、コーチングを正式に開始する前段階──いわば「はじまりの関係づくり」に焦点を当てます。
初回面談や契約前のオリエンテーションは、単なる説明の時間ではなく、クライアントとの信頼関係を築き、期待を整え、協働の基盤をつくる最も重要なプロセスです。
この講座では、「何を伝えるか」ではなく「どんな状態で向き合うか」を大切にしながら、効果的なプレコーチングの構造と要素を学びます。
クライアントが「この人となら安心して話せる」「この時間が自分の成長につながりそうだ」と感じられるかどうか──その印象は、わずか数分で形成されます。
だからこそ、コーチの在り方と構造の両方が問われるのです。

プレコーチングの3つの目的

1. 信頼関係の土台を築く ― 「安心と安全」の確立

クライアントが本音を語るには、心理的安全性が不可欠です。
オリエンテーションでは、コーチが誠実な姿勢で耳を傾けることにより、クライアントの内側に「安心して委ねられる場」が生まれます。特に初対面の場では、言葉よりも非言語的メッセージ──表情、声のトーン、間の取り方──が信頼形成の鍵を握ります。

2. コーチングの目的と枠組みを共有する ― 「期待の調整」

プレコーチングでは、コーチングのプロセスや役割分担、守秘義務の範囲を丁寧に説明することが欠かせません。クライアントは、コーチングが「相談」「助言」「指導」とどう違うのかを明確に理解することで、自らの責任と可能性を自覚します。
この講座では、ICF倫理規定に基づいた説明のポイント、スポンサー契約がある場合の関係整理、目標設定前に確認すべき質問例など、実践的なテンプレートも紹介します。
明確な期待値共有は、後のセッションでの誤解を防ぎ、信頼をより強固にします。

3. クライアントの準備度を見立てる ― 「変化への準備を可視化」

プレコーチングは、クライアントの現状や課題を把握するだけでなく、「どの程度、変化を受け入れる準備ができているか」を見極める重要な機会です。コーチは、質問を通じてクライアントの動機・意欲・自己認識の深さを探りながら、最初のセッションに向けて心の準備を整えます。この段階での洞察が、後のテーマ設定やゴール明確化をスムーズにします。

「プレ」こそが「本番」の始まり

プレコーチングという言葉は「前段階」を意味しますが、実際にはここからコーチングが始まっています。コーチが真摯に耳を傾け、共感的に関わる姿勢そのものが、すでに初回のコーチング体験なのです。この段階でクライアントが得る感覚(「この時間は自分のための時間だ」「自分の内側にアクセスしてもいいのだ」)こそが次のセッションへの信頼の種となります。また、プレコーチングはコーチ自身の自己理解を深める場でもあります。「私はどのような在り方で関係を始めたいのか」「何を大切にしてクライアントを迎えたいのか」、その問いを明確にすることで、関係性の質が格段に向上します。

次のステップへ:目的の共有からゴール設定へ

A6「コーチングオリエンテーション/プレコーチング」で築いた信頼関係と期待の共有は、次のA7「テーマ/ゴール設定」に直結します。目的が明確になったとき、初めてコーチングは共に描く未来へと動き出します。プレコーチングは、これから始まるコーチングプロセスの「土台」をつくる時間とも言えます。クライアントとの最初の出会いを単なる導入ではなく、関係の始まりとしてデザインすることが、プロフェッショナルコーチへの第一歩なのです。

国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC
日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久