B3. 自己理解と他者理解② ─他者は理解する対象ではなく、耳を澄ます存在─

自分を通して、他者をどう見ているか

B2では、「自分を知ること」の大切さをみてきましたが、本講座B3ではその一歩先へ進み、「自分を通して、他者をどう見ているか」 を探究していきます。
私たちは日常的に、「相手を理解しよう」としています。しかし本講座が提示するのは、少し逆説的な視点です。他者は“理解する対象”ではなく、“耳を澄ます存在”です。
この姿勢の転換こそが、対話の質を根本から変えていきます。

感情のスイッチ

本講座の中心テーマの一つが、「感情のスイッチ」です。同じ出来事が起きても、人によって怒りを感じたり、不安になったり、あるいは安心したりします。その違いを生むのは、出来事そのものではなく、その人の「捉え方」 です。たとえば、部下が自分を飛び越えて上司に相談したとき、「役職を飛び越えるのは失礼だ」と捉えれば怒りが生まれ、「組織として柔軟に動いている」と捉えれば安心や喜びが生まれます。出来事は同じでも、感情は正反対になります。この構造を理解することで、私たちは初めて「感情は外から与えられたものではなく、自分の内側で起きている反応である」と気づきます。本講座B3では、怒り・悲しみ・不安・喜びといった感情を丁寧に振り返り、自分の中のスイッチがどこにあるのかを可視化していきます。
ここで重要なのは、感情をコントロールしようとすることではありません。感情は、価値観や大切にしているものが反応した「サイン」です。
「この感情は、何を守ろうとしていたのか?」
「この感情は、行動や関係性にどんな影響を与えているのか?」
こうした問いを通して、感情を選択可能なものとして扱っていきます。

自己概念

次に扱われるのが「自己概念」である。
「私は誰か」「私はどんな人間か」という自己概念は、私たちが世界を理解する枠組みそのものです。自己概念は、自分を守る城であると同時に、成長を制限する枠にもなりえます。
自己概念と一致する経験は受け入れやすく、ズレる経験は拒みやすいです。だからこそ、自己概念に無自覚なままでいると、他者を“ありのまま”見ることが難しくなります。
本講座B3では、この自己概念に光を当て、自分がどんな枠組みで人を見ているのかを丁寧に探っていきます。そして、他者理解の核心へと進みます。人は「相手」を見ているつもりで、実際には「自分の解釈」 を見ています。脳は五感から入ってきた膨大な情報を処理するため、無意識のうちに意味づけやラベルづけを行っています。解釈とは、自己の鏡です。本当の意味で他者を理解するとは、自分の解釈を手放し、相手の世界に一時的に居場所を譲ることです。
「自分とは全く違う意味づけで、この人は動いているのかもしれない」
その“わからなさ”に留まる姿勢が、信頼と共感を生みます。

わからなさに耐え、耳を澄まし続けられる力を育てる

本講座B3のゴールは、「他者を理解できるようになること」ではありません。わからなさに耐え、耳を澄まし続けられる力を育てることです。それはコーチとしての技術以前に、人としての成熟を問う学びでもあります。他者を変えようとする前に、自分の解釈に気づくことです。評価する前に、立ち止まることです。
本講座B3は、対話の原点に立ち返り、関係性の質を根底から支える講座です。

国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC
日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久