
「Doing」ではなく「Being」から始めるゴールデザイン
コーチングの対話が真に力を持つのは、クライアントの「ありたい姿(Being)」が明確になったときです。
A8「ありたい姿の明確化」では、目標達成(Doing)を超えて、クライアントが“どんな自分で生きたいか”“何を大切にして在りたいか”という存在のレベルに焦点を当てます。
コーチングは行動を変える技術ではなく、存在の変容を支えるアートです。
その出発点となるのが、「ありたい姿」という内的なビジョンの明確化です。
クライアントが自分のBeingを言葉にできたとき、行動には自然な方向性とエネルギーが宿ります。
この講座では、コーチがそのプロセスをどのように支援し、クライアントが自らの軸を見出す対話をいかにデザインするかを学びます。
ありたい姿を描く3つのステップ
1. 現在から離れて未来を観る
「どうなりたいか」を問う前に「どう在りたいか」を問う。
多くのクライアントは、「やるべきこと」や「解決したい問題」から対話を始めます。
しかし、そこから導かれる行動はしばしば「義務」や「外的期待」に基づいたもので、本来の自分らしさを制限してしまうことがあります。
本講座では、「もし制約がなかったら、どんな自分でいたいですか?」「その姿のあなたは、何を大切にしていますか?」といった問いを通して、クライアントの内なる価値観や理想像を引き出します。未来のビジョンを問題の延長線上ではなく、存在の可能性として描きます。そのために、ビジュアライゼーションやメタファー(比喩)の技法も用います。
2. 感情と価値観をつなぐ
ありたい姿を明確にするには、論理よりも感情が鍵を握ります。
「何をしているときに心が満たされるか」「どんな瞬間に自分らしさを感じるか」。
これらの感情的シグナルは、クライアントの中に眠る価値観の表現です。
講座では、感情を丁寧に扱うことで、価値観の核を発見する方法を学びます。また、過去の成功体験や誇りの瞬間をリフレクションする「ライフライン・ワーク」なども行い、Beingを言語化する力を育てます。
3. ビジョンを行動に落とし込む
ありたい姿が見えた後は、それを日常の行動にどう反映させるかが鍵となります。
CBLコーチング経営アカデミーでは、「Being → Doing → Having」の順で行動を設計することを重視しています。たとえば、「信頼されるリーダーでありたい」というBeingが明確になったら、「日々の会話で相手の話を最後まで聴く」という具体的なDoingを導きます。講座では、この存在から行動を導くプロセスを、コーチングセッションでどのように支援するかを実践的に学びます。
「ありたい姿」は、自分を導く北極星
明確なビジョンを持つ人は、困難な状況でも迷いません。
なぜなら、「何を選ぶか」ではなく「誰として生きるか」を基準に判断できるからです。
この講座では、コーチ自身も自らのBeingに立ち返りながら、クライアントの内なる北極星を見出す支援のあり方を探ります。
そのプロセスは、クライアントだけでなくコーチ自身の成長にもつながります。
CBLのコーチング哲学において、「ありたい姿の明確化」はすべての学びの中心です。
リーダー、ビジネスパーソン、父親、母親──立場を問わず、人が自分の価値に根ざして生きるとき、周囲との関係や社会への影響も自然に変化していきます。
この講座は、その変化を支えるための最初の深い探求の時間です。
次のステップへ:理想と現実のギャップを探る
A8「ありたい姿の明確化」で描いた理想像は、次のA9「ギャップの原因分析」へとつながります。理想の姿と現実の間にある“ずれ”を可視化することで、クライアントは変化への道筋を具体的に見出します。
このA8は、コーチングの対話を「目標管理」から「自己変容」へと引き上げる重要な橋渡しです。クライアントが自らのあり方を言葉にできた瞬間──それは、すでに変化が始まっている瞬間なのです。
国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC)
日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久
